この舞台は2000年2月に明治座で公演された舞台の再演になります。テレビ放送もされましたから内容をご存知の方も多いのではないでしょうか。「花の情」に続いての若尾さんとの共演で、若尾さんの相手役として雄基さん固定してきた感もしますね。
原作は 山田風太郎さん著作の「エドの舞踏会」(文芸春秋の他にも 筑摩書房の山田風太郎 明治小説全集8にも収録されています)「日本海軍の父」といわれる第16・22代総理大臣・山本権兵衛(薩摩出身)がまだ海軍中佐だった頃のお話です。明治元老の夫人達を鹿鳴館舞踏会へ出席させるという仕事を海軍将校から命じられ、初代総理大臣・伊藤博文 夫人の梅子と共に悪戦苦闘します。2年前とはキャスティングが同じなのは若尾さんと雄基さんだけで、他の方は下のように替っています。
伊藤博文 :愛川欽也さん→江原真二郎さん
井上馨(聞太) :小島秀哉さん→竹脇無我さん
井上馨夫人 武子 :淡島千景さん→草笛光子さん
森有礼夫人 常子 :坂口良子さん→音無美紀子さん
物語は文明開化という激しい流れに巻き込まれながらも、それぞれの立場で生き抜く女性たちのお話です。文明開化の象徴が鹿鳴館での舞踏会であって、これに 伊藤博文夫人・梅子/井上馨夫人・武子/森有礼夫人・常子/元芸者の梅龍/伊藤博文娘・生子/井上馨娘・鳥子(母親は梅龍)とそれぞれのエピソードが内容濃く盛り込まれています。30分ほどの休憩を2度挟んで4時間に渡る舞台で重厚な舞台でした。若尾さんや草笛さんの着物姿も素敵ですし、舞踏会シーンのドレス姿も華やかで見所、満載でした。
年明けに伊藤博文邸宅の庭園で娘さん達が集まって羽根つきをしている華やかなシーンからはじまります。「渡る世間は鬼ばかり」の愛役でおなじみの吉村涼さん扮する伊藤博文・娘の生子の振り袖姿がとても愛らしいです。吉村さんも雄基さんと同じ舞台にたつ機会多いですよね。雛祭りの節句に天皇陛下のご臨幸があり、そのもてなしのために娘達が伊藤博文公に挨拶に訪れて賑やかななか、花道から伊藤博文夫人を演じる若尾さんの登場です。井上馨外務大臣を演じる竹脇無我さんとその夫人・武子もやってきて舞踏会の話をはじめる。雄基さん演じる権兵衛中佐も花道から登場です。海軍士官の制服を着てました。紺の詰め襟の制服で、いわゆる学生服な感じです。海軍士官の制服をもとに男子学生の最初の制服が定められたそうなので学生服に近いのも納得ですね。薩摩弁が抜けきれない権兵衛中佐ではあるが西洋のマナーやダンスに通じているとのことで、鹿鳴館の舞踏会の手伝いをするように言われる。「ダンスなんてあげな軟弱なもん」と嫌悪感をあらわにする硬派な中佐です。
話がもりあがっているところに、武子が育てている女の子・お鳥がさらわれたと使用人が駆け込んでくる。ほっとけという夫に、夫・井上馨が他の女性と作った女の子で自分とは血が繋がっていない子であるが手をかけているうちに愛情が芽生えてきた武子は指定された場所に掛け走る。梅子もあとを追い、馬車を操れるという権兵衛も追う。場面は廃寺に変わります。
自由党壮士・広見に惚れ込んだ元芸者・梅龍が我が子のお鳥を犠牲にして井上から金をとりあげる目的だった。文明開化との鳴り物で井上馨指揮のもと作られた鹿鳴館であったが、華やかな舞踏会の影で農民平民は貧困の日々に苦しんでいた。この賊達は、山本権兵衛中佐によって討たれますが鹿鳴館での舞踏会を控えた夫人たちに複雑な思いを刻みます。
ここで、雄基さんの立ちまわりが見れます。最後には大上段から「チェストォ」の薩摩剣士おなじみの掛け声で踏み込む権兵衛中佐。凛々しいです。
井上馨の娘・鳥子を演じる 永嶌花音ちゃんは「空のかあさま」にも出演していた女の子です。(松たかこさん主演の金子みすゞさんのドラマ「あかるいほうへあかるいほうへ」にも同じ役で出演されてましたね) 1年以上過ぎているので、明らかに大きくなったなぁ と感じました(笑)
武子は鳥子を大事に育てるが、母親の死を目にした鳥子はそのショックからか口をきかない。苛立つ夫から庇い武子は鹿鳴館の仕事からも役目を降りゆっくりと鳥子に接するようになります。
梅子と権兵衛はダンスの講師を依頼するために英米に駐在していた森有礼文部大臣の夫人・常子を訪問する。だが、常子は妊娠の身であった。体を気遣い優しい声をかける梅子に常子は自分の過ちを打ち明ける。子供は夫以外の男性の子かもしれない、青い目をした子が産まれるかもしれないと… 泣き叫ぶ常子を抱きしめて産まれてくれば可愛いと、苦しいなかでも子を産んで育ててきた女性の手によって受け継がれてきた子守り歌を歌って聞かせる
「水子にならずに産まれた子 いまは可愛さ限りなし」
とてもしっとりと、子守り歌が響きます。立ちすくんで梅子を見つめる権兵衛の、女性に圧倒される思いが伝わる気がしました。
天皇陛下のご臨幸準備に追われている井上邸。内情は苦しく、家財道具などは井上家からの借り物だった。忙しく働く梅子のもとに贔屓にする芸者のお香(上村香子さん)が酷い格好で駆け込んでくる。生糸商の野々沢がお香の抱え主に借金の返済を迫り、借金が払えないならお香を妾に差し出せと迫ったのだ。野々沢が伊藤博文とも懇意の仲だと聞き、梅子のもとに助けを求めにきたのだった。
だが、伊藤博文も野々沢には5千円の借金があり、なす術がない。野々沢の傲慢な態度に我慢できなくなった梅子は座敷に野々沢を呼び出す。芸者姿に扮した梅子は野々沢にお香の分とあわせて6千円を叩きつけた。啖呵をきる梅子、迫力のシーンです。
6千円は邸宅を売って作ったお金だった。ご臨幸のあと梅子らは裏通りの狭い借家に移り住む。舞踏会まで残り1ヶ月 準備に追われる梅子と権兵衛。そこへ常子が産まれたばかりの赤子を連れてやってきた。子供は黒い目の女の子でよろこぶ常子。それを見ていた権兵衛は不義の事実を秘密にして生きていくのかと常子を理解できないでいた。そんな潔癖で真っ直ぐな権兵衛を好ましく思っていた梅子は権兵衛に娘・生子と付き合ってくれないかと話す。だが「自分には秘密があるのだ」と思いつめた表情をして去っていく権兵衛だった。
(前作ではこの前でふぐの干物を差し入れに梅子と同郷の女性が訪ねてくるシーンがありましたが、今回はそのシーンは除かれていました)
その夜、忍び込んできた賊に梅子がピストルで撃たれる。弾は急所をはずれ、命をとりとめた梅子だが入院生活を送っていた。賊は生子を送ってきた新聞記者・末松(佐野瑞樹さん)によって捕らえられたが、新憲法に反対して博文を狙ったのか、舞踏会に反対して梅子を狙ったのかは謎のままであった。
病床の梅子のもとに末松とともに生子がやってくる。末松との結婚を許して欲しいと願う生子に、生子の望むとおりにしてやりたいと結婚を承諾する梅子。だが、その心のうちでは権兵衛を諦められずにいた。
梅子の代わりに舞踏会の準備をすすめる武子もやってくる、鳥子は武子たちに打ち解け明るく育っていた。そんな鳥子を育てるうちに揺るぎない心をもった武子は前向きな心境になっていた。
スーツ姿の権兵衛が訪ねてきた。休日なので私用でやってきたという権兵衛は自分の秘密を梅子に打ち明ける。梅子とともに行動し、強く生きる女性達をみてきた権兵衛は自分の進退を決心した。権兵衛には内縁の妻がいたが、その女性は遊郭から足抜けさせた女郎だった。海軍は女郎との結婚は禁止されていたが、海軍を辞めることになっても妻と正式に結婚することを決心したのだ。
そして舞踏会 当日。武子と鳥子・常子・生子と美しいドレスを身に付け優雅にダンスを楽しんでいた。そして梅子も権兵衛の差し出された手をとりステップを踏みながら、女性達の新たな時代の幕開けを感じていた。最後の舞踏会での権兵衛中佐は軍礼服姿でとっても素敵で、階段で手を差し出す姿は溜息がでるほどでした。ダンス中にも若尾さんと笑顔でやりとりされていて、豪華な舞踏会を見ることができました。
(最後は舞台中心の若尾さんと雄基さんが立つ部分がせりあがってました。これも前作とは違う点ですが、後半はこのせりあがりもなくなっていたそうです。)
千秋楽近くの、11/21(木)午前の公演がはじまってから若尾さんが貧血で倒れて、午前の部は急遽休演となり、その後 体調をもどし午後は開演したそうですが、22日(金)の午前の部も休演(この日は午後の部は設定なし)となり、翌日から6回の舞台は若尾さんが降板となってしまいました。若尾さんの役を音無さんが演じられてましたが、千秋楽は若尾さんが復帰されたとか。体調不良のなか舞台にたつ若尾さん、短い時間で準備して代役を務められた音無さんに梅龍役の石原舞子さん。これぞプロという意志を伝えてくれる舞台でもありましたね。
投稿者 sato : December 27, 2003 12:19 PM