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春が来た

ちょっと長いので、どこか切ろうと思ったのですが、それぞれの幕で書いておきたいことがそれぞれあって短くできませんでした。長くてスミマセンです <(_ _)>

 原作は向田邦子さん。文春文庫「隣りの女」のなかに収録されている短編小説です。飯島早苗さん脚本、山田和也さん演出で東京・名古屋・大阪・島根・鳥取と各地で上演されました。
 主人公の池田直子に涼風真世さん。直子の母・須江を池内淳子さん、父・周次を山本學さんが、妹の順子を松岡由美さんが演じられました。雄基さんは直子の恋人・風見隆一を演じます。池内さんと涼風さんはリズミカルに次から次へ出てくるセリフが見事。それに、ところどころ絶妙な間の演技で笑わせてくれます。口が達者な女性陣に押されっぱなしで家族に軽んじられているようでも実は愛されているんだろうなぁって父親役の山本さん。お父さんの情けなさぶりにも笑うことがあったり… 順子を演じる松岡さんは「はぐれ刑事純情派」の役とは全く違って、お気楽に生きているような女の子。だめな父親をからかってみたりするけど、実は繊細でとっても優しい妹。
 雄基さん演じる風見は不器用な直子の両親が頑張って歓迎したくなるのも肯けるほどの好青年ぶり。簡単に家族に打ち解けて、嫌な顔ひとつしないところなんかは、実はズルイところだったりしたのかなと後で感じたり…
 それぞれのやりとりも面白く、家族の賑やかさ暖かさが伝わってくる舞台でした。

 私は銀座と大阪(←突発的に大阪まで行くことになる計画性のなさ┐( ̄ー ̄)┌  )で観ました。テアトル銀座はとても綺麗な劇場でしたね。お客の年齢層もこれまでの他の劇場に比べて若く感じました。大阪の近鉄劇場は座席数が約950の大きな劇場。先に閉鎖の話もあがってますよね。こちらではチケットを電話予約しておいて当日受け取ったのですが、当日券を求める人も結構いたようです。しかし関西に行くとエスカレータで左側を空けるルールを毎回、忘れてしまいます。。。なんで関東とは逆なんでしょうね?


 劇場に入るとセミの鳴き声が響いてます。外の暑さがぶり返すようでした。開演直前には夕立の音、休憩中にはお神輿を担ぐ声なども聞こえてきて”夏”を盛りあげてくれました。それに場内アナウンスが変わっていて開演前には「写真撮影、録音、録画は他のお客様の迷惑になるだけではなく、出演者が気付くとぼけを狙う演技をしたり、図に乗って芝居が伸びる危険がありますので…」とか 休憩を挟んだ2幕の前には「携帯電話の電源をお切り下さい」(ここまでは普通の声、でちょっと低くなって)「そう、携帯電話を使ったそこのあなたっ‥」とか遊び心に溢れてました。これはテアトル銀座がこういうアナウンスなのかなぁと思ってましたら大阪でも聞けましたので演出の一部なのでしょうね。

 舞台は、喫茶店から始まります。涼風真世さん演じられる池田直子は恋愛結婚を希望するOL。やっと掴んだチャンスを逃さないよう、完全武装でデートに臨みます。髪をアップにして赤いマニュキア・赤いドレス・赤いピンヒールと眩しいです。直子は冴えないOLって設定ですけど涼風さんはとっても綺麗でした。ドレスにはスリットが入ってまして、座っているとおみ足が見えてセクシー。
 この直子のお相手が雄基さん演じる風見隆一です。営業担当のサラリーマンという設定でしたので濃紺のスーツで登場!素敵です。走ってきたらしく、いきなりグラスのお水に手をのばす(初日ではお水を飲み干したと思うのですが、大阪は午前・午後の午後の部だったせいか半分ほど残ってました。舞台ではお水にコーヒー・麦茶・ビールと飲み続ける雄基さん。そんなに飲めないですよねぇ)
 お嬢様なイメージだという風見の言葉に調子に乗った直子は、父親は大学の頃の友人と広告関係の会社を共同経営しているだの、母親は現実離れしていて夏は「麦茶より、冷たいお水でお薄でもお点てなさい」と厳しいのよ。とか言ってお茶・お花をやるのだなんて見栄を張ってみたりする。涼風さんの"きやぴきゃぴ"したやりとりがとっても面白いです。
 食事はフレンチでいいかな?と問う風見に「うれしい。うち母が日本食ばかりで…」とまたしても見栄を張る直子。罰があたったのか、お手洗いに立ったときに店員が押すワゴンにぶつかり足を捻挫してしまいます。

 池田家 門前のシーン。直子の母親・須江を演じる池内さんの登場です。普段の落ち着いた池内さんからは想像がつかない”おばさん”に変身されていました。髪は白髪まじりで簡単にまとめて、おばさんの定番「アッパッパ」(ってご存知です?御婦人が夏場に愛用する事が多いワンピースのようなものです (>w<)プッ )を着てシミーズが下からはみ出てます。出てきた母親は想像と全く違うし、家にあがり居間の床を踏むと”ぎぃ”って音までしてるし、部屋は見事に散らかってる。それにいきなり麦茶が出てきて、タクシーで直子を送ってきた風見は話の違う池田家に戸惑う(笑)
 男っ気がないと思っていた娘が男性を連れてきたもので母は詮索をはじめる。そんな母に向かって「お母さんは黙ってて!」と直子。風見の方を向いて、口にチャックをする池内さんの仕草が可笑しいです。直子の見栄は完全にはがれてしまいます。

 次の金曜日、直子が残業で遅くなって帰ってくると母が「金曜だもんね。おデートだったんだろう?」と詮索。先週の訪問以来、風見から連絡が来ない直子は家族に当たり散らしていく。父の靴下を履く母を責めると「だって足がキヤキヤするんだよ」と答える母・須江。キヤキヤってどんなでしょう… ポンポン飛び出すセリフにまけずに応戦する母親。父親は隅で小さくなってるしかありません。静かに碁板に石を置く父に向かって、「碁石ぐらい音たてて置いてよ!」と直子。んな、碁石の置き方にまで文句いわなくてもねぇ…
そんなときに風見が北海道出張の土産を持って訪ねてくる。なんだか嬉しい予感です。

 また別の日。風見の訪問を期待していた母は前掛けを新しくし、おでんとお煮付けを用意して待っていた。日頃の手を抜きまくった食事とはあきらかに違う食卓。風見も上着を脱いでくつろぎ出す。
食事後、お腹がいっぱいだと横になる風見。雄基さんが横になると「大きいわねぇ」と周りの叔母様方からも声があがってましたよ(笑)風見が横になるのを見物させてもらうという須江に「見物なんていわないで一緒に横になりましょうよ」と誘う風見。妹の順子に「牛になるよ」と言われて、「おうっ 牛になってやる」と須江と一緒に「せーの、モー」と頭に手をあて人差し指を立てて角をつくる風見(かわいいっ)。妹の順子まで横になってしまい、なんだかつまらない直子。

 そのまま風見は寝入ってしまう。恋人らしい進展がいまだないことを聞いた母と妹は直子に気を使って、居間に2人っきりにしてあげようと提案。寝ている風見に近づくもののなにも出来ない直子は深い溜め息を吐く。それに気付いて目を覚ました風見が「腕枕」と腕を差し出す。一旦は背を向け断わったものの、背を向けたまま風見に近づく直子(笑)腕枕に頭をあずけてもなんだかぎこちない。風見が直子を抱こうとゆっくり腕を曲げようとすると奥から覗いていたらしい母と妹のからかうような笑い声が聞こえてきます。

 酒の弱いはずの父・周次が駅前で風見を誘い、歩けなくなるほど酒を飲んで帰ってきた。介抱していた風見もヘロヘロです。風見のズボンが父親のせいで汚れてしまったのに気付き甲斐甲斐しく世話をする母。なんかエプロンは新調されていて髪も綺麗に染まっている。いつもの池内さんに戻ってきました。
周次を見て「お水がないと可哀相ね」といった母の言葉に素早く水を取りに立った妹が、父より先に風見に水を差し出す。なんだか嫌な雰囲気を感じる直子。順子と口論になり、順子が飛び出してしまう。
(雄基さんはお水を飲んで寝てしまうのですが、座ったまま机に伏せてしまうのでおでこが当たって凄い音がしました。いたそぅー。しかも舞台によっては音が弱かったり強かったりしてましたので、ナチュラルにぶつかってると思われるのです)
須江は気にせず、肌のお手入れに励みます。このときはBGMに「Singin'in the Rain」がかかります。母・須江の浮かれる様子が伝わってきます。

 2幕があくと、着物姿で花をいける池内さんが座っています。あまりの変わりように場内爆笑です。仕事から帰ってきた直子も居間に入った瞬間、母に気付いて飛び上がります。この驚きようも可笑しい。以前はテレビがあった場所(しかもそのテレビの上には木彫りの熊が飾ってあった(笑))に、今では花が置かれています。そんな呑気な母に、妹が心配じゃないのかと詰め寄る直子。そこに警察から電話があって、順子が警察のお世話になったと知らせが… 父・母・姉には向かえに来てほしくなかった順子は引き取りとして風見に連絡した。順子は家族の前で恋に敗れた話を涙ながらに話すのだった。

 お祭りの日。浴衣を着せられたままで手を横にぴーんと伸ばして立っている雄基さん。須江が帯を探しに行っているようです。「かかし」と、からかう周次。銀座では浴衣の前がはだけたりして(にや←あっ、すみませんっ)ましたが大阪ではきっちり重ねたままで、はだける隙はなかったですね(笑)
 手を伸ばした風見の前で、周次の仕事(ピンクチラシの作製)関係の人がやってきてキャッチーなコピーを口にする。『女子高生なんちゃら』とか『エッチなお姉さんなんちゃら』とか(笑)もちろん風見にも聞こえているわけで、びっくりする雄基さんも面白いっ

 お祭りから帰ってきて一家団欒。須江がチカンにあい「いやぁねぇ。いくつだと思ったのかしら」と盛り上がる。ここで雄基さんは蚊取り線香に火をつけます。客席にまで蚊取り線香の匂いが漂ってきます。んー、夏の匂いですよね。
 同じ話を繰り返す須江に周次が「いいかげんにしないかっ!」と怒鳴り声をあげる。やきもち? 静かになった居間で、周次が風見にビールを注ぐ。風見が注ぎかえす。それを見ていた須江が「まぁこうしていると本当の家族みたいね」そして切り出した。
「そうは思ってはいけないかしら?」家族の視線が風見に注がれる。風見は振り返り、後ろにいる直子と目を合わせたあと、ゆっくりと肯いた。「じゃぁ来年の春でしょうかね」喜ぶ須江の注いだビールがグラスからこぼれた。

 風見を見送る直子。周次の須江への変わらない愛を素敵だという風見。「そうね。自分の親じゃなければね」という直子に「自分だったら?」と風見が尋ねる。直子は風見に近づき唇を突き出す。きゃー!キスシーンです。風見の手が直子の肩におかれ顔が近づいた瞬間… ネコの泣き声が…
ネコに邪魔されちゃった… ゆっくりと風見から体を引く直子。あとには直子の肩を抱いていた雄基さんの左手が空しく浮いておりました(笑)


 そして再び、最初の喫茶店で風見を待つ直子。現われた風見は直子に別れを告げる。「僕には重すぎる」と去っていく風見。母は綺麗になり、妹も女として涙を流した。情けなかった父も堂々とした態度をとるようになった。
風見は直子の家族には春を運んだが、直子のところには運んでくれなかった。

 家に帰ると、須江がお茶を点てていた。これまた居間に入り、驚いて飛び上がる直子。BGMは「春の海」です。お琴の定番曲ですね。妹・順子の横に座り、須江が点てたお茶をいただく。お茶を飲み干すと横に座っていた父・周次がカセットデッキに手を伸ばしてBGMを停める。ってお父さんが流してたのね。。。
須江が一目惚れして買ってしまった留袖を公開する前に心を落ち着かせるためのお茶だったそうです。「じゃ、披露しようかね」と立ち上がると、また父がカセットデッキに手を伸ばした。かかった曲は… 「スターウォーズ」でした(爆笑)
だが留袖を羽織った須江が急に頭痛を訴え倒れ込み救急車で運ばれる。

 舞台上には冬の寒いころを思わせるよう薄いもやがかかっています。車椅子に座る須江を後ろから押しながら、庭の樹を説明していく周次。少し記憶障害となった須江にとてもやさしく接する。眠ってしまった須江を見ながら、直子は見合いをすることを父に告げる。「恋愛向きの体質ではないのよね」という直子に父は「お父さんは結婚してからお母さんに恋愛をした。ゆっくり… 恋愛に向いてない人間なんていない。かかる時間が違うだけだ。一生かかって誰かに恋をすればいい」と暖かな言葉をかける。
妹・順子もあらわれ周次が須江のために植えたという水仙の蕾をみながら、春の兆しを感じていた。
「春が来るね。いい春になるといいよね」
「悪い春なんてないだろう」
「そうだね。春ってだけでいいよね」


 舞台の季節感の表しかたが絶妙でしたね。いきなりセミの声で、舞台では団扇をバタバタ… 『夏』を盛り上げました。冬の靄も寒い感じが出てましたし、次の瞬間のオレンジがかったライトは春の暖かさを感じることができました。
それぞれの幕に笑うポイントもそれぞれあって楽しいのに、ラストは原作と少し違って暖かく、以前より状況は悪くなっているのに力強い池田家に勇気付けられた舞台でした。

投稿者 sato : December 27, 2003 12:17 PM