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花の情

 「花の情」は1998年の11月に明治座にて上演された舞台の再演。 配役もほとんど同じでした。ただ 若尾文子さん扮する千沙の夫 佐野川流家元・光蔵が浜畑賢吉さんから江原真二郎さんに交代されています。2つのパンフレットを比較してみてもほとんど変わりはないのですが、見終わったあと雄基さんの出演が3年前より増えているように感じました。贔屓目でしょうか?
 それにこの3年間 いろいろな舞台に出演され経験を積まれてらっしゃいますから明治座公演より、力強く安定感のある演技をされてたように思います。


 名鉄ホールは名古屋駅に近い 名鉄デパートの10階にあります。劇場は例に漏れずに年配のお客さまが多い。「花の情」は日本舞踊の名門・佐野川流の三代目家元 佐野川光蔵(江原真二郎さん)夫人・千沙(若尾文子さん)と、流派の後継者と目されている愛弟子・加藤紀久雄(松村雄基さん)の情愛が描かれています。
 紀久雄の妻・梢を音無美紀子さん、流派の事務を纏める高木常吉に小島秀哉さん さらに紀久雄のもう1人の女性として登場する三崎雪子を小川範子さんが演じられています。他にもホリヒロシさんの人形舞踏や豪華な舞台装置、着物衣裳のデザインなど みどころが満載でした。
 3幕の通夜の場面での千沙は色喪服を身につけていますがその帯には「夢」の文字が… 衣裳からも千沙の想いが伝わってきます。

雄基さん扮する紀久雄は、タレントとしても活躍しているため ファンが家の前で待ち伏せしてたと裏門から袴姿で登場。とても凛々しいです。なんだか タレントとして人気があるなんて雄基さんそのままではないですかぁ

千沙が「保名」を躍る紀久雄のために着物を染め直したことを聞くと、紀久雄は嬉しいと満面の笑顔を浮かべる。母親に愛される 邪気のない子供のような笑顔。
 着て見せてと千沙に言われ、衣裳を付けてみせる。長袴をはき扇を持ち謡う紀久雄

     「寝ようとすれど 寝られねば 寝ぬを恨みの 旅の空」

紀久雄の声が劇場にゆっくりと広がってゆきます。 恋人・榊の前をなくし、発狂して恋人の残した小袖を抱え さまよう保名の気持ちに 愛する千沙と一緒になれない紀久雄の気持ちはシンクロし「自分にとっての榊の前が誰かを考えるとね」と紀久雄は小袖を千沙の肩にかけるのです。

 流派を影で支えながら家元の浮気までも片づける千沙を見て紀久雄の一度は封印したはずの気持ちが再び動きだします。いわきの支部を訪れた千沙を紀久雄が追って塩屋岬に連れていき「生活することと 生きることは違う」 千沙と離れている自分は生きてはいない 自分に大切なものを取り戻させてくれと懇願する。
 千沙が振り向かなければ死んでしまうのではないかと思わせるほどの激しい訴え。雄基さんの目に涙が溢れ、こぼれだすのが客席からも分かりました。

 お互いを取り戻した、千沙と紀久雄は 東京に戻ってからも決して易しくはないことを続けていこうと決心していた。佐野川邸で 千沙と会う紀久雄。家元が席を外したすきに顔を近づけ愛しそうに見つめあう。千沙が忘れてきたハンカチを取り出し「僕にください」と言う紀久雄。誰に見られるか分からないという千沙の手を 紀久雄はいたずらをするように掴んで離さない。強引に千沙が離れると 少し拗ねた表情を見せる。とてつもなく魅惑的です

 食事に誘う家元夫婦に 「けりをつけないといけないことがある」と 家を後にする紀久雄。
 外は酷い雨。千沙が紀久雄を呼び止め運転に気をつけるように声をかけると自分のことを心配してくれるのが至福であるとばかりに とても甘く 静かな微笑みを残し ドアの向こうに消えていくのです。


 千沙に対する紀久雄の気持ちは 凄まじく強烈に 客席の私たちに伝わってきます。
若尾文子さんは 夫の浮気・紀久雄への想い・雪子への嫉妬の気持ちをひた隠し 世間に向けて演技を続ける千沙を妖艶に演じられています。音無美紀子さん演じられる紀久雄の妻・梢は 言い難いこともズバズバと言い放ってしまう楽天家のお嬢様ですが、天真爛漫で梢が出てくると舞台が明るくなりますね。その対極にいる小川範子さん演じられる雪子。紀久雄と似た生い立ちで 儚げな容姿に反したシッカリとした女性です。
 「道頓堀ものがたり」にも出演されていた 小島秀哉さんの深みのあり、たまに見せるコミカルな演技。紀久雄の死をひっそりと悲しんでいる姿は涙をこらえることができないでしょう。江原真二郎さんの演じられる家元・光蔵は女好きな 厄介ごとを避けて通る性格ですが、紀久雄を亡くして 狂乱する千沙を一喝し、自分が全て取り計らうからと毅然とした態度を見せます。このときは 「空のかあさま」での厳格な父親を彷彿させました。


紀久雄を失った 千沙が見る、紀久雄が躍りたかった「保名」。辺りには桜が咲き乱れ、狂った保名との明暗のコントラストが 保名の狂気を一層強いものにみせています。とっても艶やかで、素敵な舞台でした。


 ところで保名の性は 安倍といいます。このお話には続きがあるそうで狂った保名は榊の前の妹 うりふたつの葛の葉に出会い 正気を取り戻します ですが この葛の葉もまた姿を消してしまいます。その時に 保名に以前命を救ってもらった白狐が 葛の葉に姿を変え 保名の前に現われるのです。やがて 子供が生まれますが、この子供が 平安時代の陰陽博士 安倍晴明なのだそうです。不思議な お話ですね

投稿者 sato : December 27, 2003 12:09 PM